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東京地方裁判所 昭和42年(レ)121号 判決 1969年8月27日

控訴人 藤本潔

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 黒笹幾雄

右両名訴訟復代理人弁護士 小林康男

同右 小林貞五

被控訴人 富久栄興業株式会社

右代表者代表取締役 吉川充一

右訴訟代理人弁護士 小池金市

同右 菅野谷純正

同右 林哲郎

被控訴人 米谷明

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 瀬崎憲三郎

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴人等の被控訴人米谷明、同堀越弘子に対する第二次請求を棄却する。

三、控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

第一、控訴の趣旨

一、原判決を取消す。

二、(被控訴人富久栄興業株式会社に対する請求)

控訴人等が別紙物件目録記載の建物について、被控訴人富久栄興業株式会社に対し賃借権を有することを確認する。

三、(被控訴人米谷明、同堀越弘子に対する請求)

(一)  (第一次請求)

被控訴人米谷明は別紙物件目録記載の建物の内一階部分を、被控訴人堀越弘子は同建物の内二階部分を、それぞれ控訴人等に対し明渡せ。

(二)  (第二次請求)

別紙物件目録記載の建物について、控訴人等と被控訴人米谷明、同堀越弘子との間には、控訴人等を賃貸人、訴外渡辺恒司を賃借人とする賃料一か月金七万円の賃貸借契約と右訴外人を転貸人、右被控訴人両名を転借人とする賃料一か月金九万円の転貸借契約とが現存することを確認する。

四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

との判決ならびに第三項(一)につき担保を条件として仮執行の宣言を求める。

第二、控訴の趣旨に対する答弁

一、(被控訴人富久栄興業株式会社)

主文第一項、第三項同旨の判決を求める。

二、(被控訴人米谷明、同堀越弘子)

主文同旨の判決を求める。

第三、請求原因

一、(被控訴人富久栄興業株式会社に対する請求および被控訴人米谷明、同堀越弘子に対する第一次請求について)

(一)  控訴人等は昭和二一年一月六日別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)をその所有者訴外合資会社鳥海商会より賃借した。

(二)  その後本件建物の所有権は昭和二二年一一月頃右訴外会社から訴外岡部誠三郎(以下訴外岡部という)に、昭和三一年七月一五日右訴外岡部から被控訴人富久栄興業株式会社(以下被控訴人会社という)に移転し、控訴人等に対する賃貸人たる地位も右所有権の移転に伴って右訴外会社から右訴外岡部を経て被控訴人会社に承継された。

(三)(1)  控訴人等は右(一)記載の賃貸借契約成立の頃本件建物の引渡をうけ、昭和二三年四月三日訴外渡辺信司(以下訴外渡辺という)との間に本件建物における営業について経営委託契約を締結し、引き続き昭和二五年三月三〇日、更に昭和三三年三月一〇日右と同趣旨の各契約を締結し、右訴外人を占有補助者として本件建物を直接占有してきた。

(2)  一方被控訴人米谷明、同堀越弘子(以下被控訴人両名という)は昭和二六年一〇月一日より、(イ)控訴人等から右営業についてその経営を委託され、控訴人等の占有補助者として、(ロ)又は右訴外渡辺の被傭者として、本件建物において喫茶店等を営業するに至った。

(四)  ところが被控訴人両名は、昭和三七年四月一八日被控訴人会社との間に本件建物について賃貸借契約を締結したと称し、本件建物をじ後被控訴人会社のために占有する旨を表示して控訴人等の本件建物への立入りを拒絶し、もって控訴人等の占有を侵奪した。

(五)  そして被控訴人米谷明は本件建物の内一階部分を、被控訴人堀越弘子は二階部分をそれぞれ現に占有している。よって控訴人等は、被控訴人会社との間で、控訴人等が被控訴人会社に対し本件建物について賃借権を有することの確認を求めると共に、占有を伴う右建物賃借権に基づいて被控訴人米谷明に対し本件建物の内一階部分の、被控訴人堀越弘子に対し同建物の内二階部分の各明渡を求める。

二、(被控訴人両名に対する第二次請求について)

仮りに訴外渡辺および被控訴人両名が右一、(三)で主張したように控訴人等の占有補助者であるとは認められず、本件建物について独立の占有を取得したものと認められるとすれば控訴人等は以下のとおり主張する。

(一)  控訴人等は本件建物について訴外渡辺との間で、昭和二三年四月三日転貸借契約を締結し、その後昭和二五年三月三〇日および昭和三三年三月一〇日右契約内容を多少変更して右同様転貸借契約を締結した。

なお賃料は右第三回目の契約で一か月金七万円と定められた。

(二)  訴外渡辺は本件建物について被控訴人両名との間で、昭和二六年一〇月一日再転貸借契約を締結した。なお賃料は昭和三二年四月以降一か月金九万円となった。

(三)  被控訴人両名は右一、(四)で主張したように被控訴人会社との間に直接賃貸借契約を締結したと称して、右(一)、(二)主張の契約の存在を否定している。

よって控訴人等は、被控訴人両名に対し、当審において新たに、第二次請求として、控訴の趣旨第三項(二)記載のとおりの確認を求める。

第四、請求原因に対する答弁

一、(被控訴人会社)

請求原因一、(一)(控訴人等・訴外合資会社鳥海商会間の賃貸借契約)、同一、(二)(本件建物の所有権の移転および賃貸人たる地位の承継)は、いずれも認める。

二、(被控訴人両名)

(一)  請求原因一、(一)については、控訴人等がその主張の日に本件建物を賃借したことは認めるが、当時の本件建物の所有者および賃貸人は訴外岡部である。

(二)  請求原因一、(二)については、本件建物の所有権が昭和三一年七月一五日訴外岡部から被控訴人会社に移転し、同日被控訴人会社が賃貸人たる地位を承継したことは認める。

(三)(1)  請求原因一、(三)(1)(控訴人等の本件建物占有)については、控訴人等が昭和二三年四月三日、昭和二五年三月三〇日および昭和三三年三月一〇日、訴外渡辺との間で経営委託契約なる契約を締結したことは認めるが、その余は否認する。右契約は、いずれも訴外渡辺が本件建物において独立して営業を行うことを目的とし、本件建物の転貸借契約を伴うものであって、右訴外人は本件建物について独立の占有を取得したものである。

(2)  請求原因一、(三)(2)(被控訴人両名の本件建物使用)については、被控訴人両名が昭和二六年一〇月一日より本件建物において喫茶店等を営業するに至ったことは認めるが、その余は否認する。被控訴人両名は右同日訴外渡辺から本件建物を再転借して本件建物について独立の占有を取得したものであり、昭和三七年四月当時には被控訴人両名が本件建物を直接占有し、控訴人等は間接占有者であったにすぎない。

(四)  請求原因一、(四)(占有侵奪)については、控訴人等の占有を侵奪したとの点を除き認める。

(五)  請求原因一、(五)(被控訴人両名の現在の占有)は認める。

(六)  請求原因二はすべて認める。

第五、抗弁

一、(請求原因一について、被控訴人等三名共通)

(一)  控訴人等は昭和二三年四月三日、昭和二五年三月三〇日および昭和三三年三月一〇日の三回にわたり訴外渡辺に対し本件建物を転貸し、同訴外人に使用収益させた。

(二)  被控訴人会社は昭和三六年五月一〇日到達の内容証明郵便をもって、控訴人等に対し本件建物についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなした。

よって被控訴人会社・控訴人等間の賃貸借契約は解除により終了した。

二、(請求原因一について、被控訴人両名)

仮りに右解除の主張が認められないとしても、被控訴人両名は昭和三七年四月一八日被控訴人会社との間で本件建物について賃貸借契約を締結し、控訴人等に対し、じ後被控訴人会社のために占有する旨を表示して現在に至るまで本件建物を占有してきたから、控訴人等は被控訴人両名に対し賃借権を対抗できない。

三、(請求原因二について、被控訴人両名)

(一)  右一、で主張したように被控訴人会社・控訴人等間の賃貸借契約は控訴人等の訴外渡辺に対する転貸を理由に解除された。

(二)  そして被控訴人両名は昭和三六年六月一六日被控訴人会社より本件建物の明渡請求訴訟(東京簡易裁判所昭和三六年(ハ)第四八一号)を提起されやむなく昭和三七年四月一八日裁判外の和解により被控訴人会社から直接本件建物を賃借することとし、以後右賃貸借契約に基づいて本件建物を使用収益するに至った。

(三)  よって控訴人等主張の転貸借契約、再転貸借契約はその解除をまたず、当然終了したものというべきである。

第六、抗弁に対する答弁

一、(一) 抗弁一、(一)(転貸)については、控訴人等が被控訴人等主張の日に、三回にわたり、訴外渡辺に対し本件建物を転貸し、使用収益させたことは否認する。右訴外人は控訴人等より経営の委託をうけ、控訴人等の占有補助者として本件建物において営業を行ったにすぎない。

(二) 抗弁一、(二)(解除の意思表示)は争わない。

二、抗弁二については昭和三七年四月一八日控訴人等が被控訴人会社との間で賃貸借契約を締結したと称して、控訴人等に対し、じ後被控訴人会社のために占有する旨を表示して現在に至るまで本件建物を占有してきたことは認めるが、その余は争う。

三、(一) 抗弁三、(一)(被控訴人会社・控訴人等間の賃貸借契約の解除)は争う。

(二) 抗弁三、(二)(被控訴人会社・被控訴人両名間の訴訟・賃貸借契約等)については被控訴人両名主張のような訴訟の提起があったことのみ認め、その余は争う。

(三) 抗弁三、(三)(転貸借、再転貸借の当然終了)は争う。

第七、仮定再抗弁

仮りに控訴人等が本件建物を訴外渡辺に転貸して使用収益させたものとしても、

一、控訴人等と訴外合資会社鳥海商会との間の賃貸借契約については、控訴人等において本件建物を他に転貸し得る旨の約定があった。

二、昭和二二年一一月頃から昭和三一年七月一五日まで賃貸人であった訴外岡部は右転貸を承認していた。右承認は、訴外岡部が昭和二七年七月二五日控訴人等に対し転貸又は賃借権の譲渡を理由に本件建物の明渡を請求し、交渉の結果、昭和三〇年一二月八日控訴人等との間で、被控訴人両名の本件建物使用を承認し、控訴人等との間の賃貸借を継続する旨の和解をなしたことによっても明らかである。

三、被控訴人会社は解除の意思表示の後である昭和三七年一一月頃、控訴人等より昭和三一年八月分以降昭和三六年四月分までの本件建物の賃料を受領したから、これにより解除の意思表示を撤回したというべきである。

第八、仮定再抗弁に対する答弁

(被控訴人等三名共通)

(一)  仮定再抗弁一(転貸をなし得る旨の約定の存在)は否認する。

(二)  仮定再抗弁二は争う。

(三)  仮定再抗弁三については、被控訴人会社が控訴人等主張のとおり賃料を受領したことは認めるがこれにより解除の意思表示を撤回したとの主張は争う。

第九、証拠関係≪省略≫

理由

第一、被控訴人会社に対する請求および被控訴人両名に対する第一次請求について。

一、控訴人等が昭和二一年一月六日本件建物をその所有者訴外合資会社鳥海商会より賃借したこと、本件建物の所有権が控訴人等主張の日に右訴外会社から訴外岡部を経て被控訴人会社に移転し、控訴人等に対する賃貸人たる地位も右所有権の移転に伴って右訴外会社から訴外岡部を経て被控訴人会社に承継されたことは、控訴人等・被控訴人会社間ではいずれも当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を総合すれば、控訴人等・被控訴人両名間においても右一の認定事実と同一の事実を認める(ただし控訴人等が昭和二一年一月六日本件建物を賃借したことおよび本件建物の所有権が昭和三一年七月一五日訴外岡部から被控訴人会社に移転し、控訴人等に対する賃貸人たる地位も右所有権移転に伴って被控訴人会社に承継されたことは当事者間に争いがない。)ことができる。≪証拠判断省略≫

三、そこで被控訴人等三名主張の転貸による賃貸借契約解除の抗弁について検討する。

(一)(1)  ≪証拠省略≫を考えあわせれば、

(イ) 控訴人等が昭和二三年四月三日訴外渡辺との間で本件建物における食料品販売業について経営委託契約なる契約を締結し、同日以後訴外渡辺が本件建物の一階において右販売を行い、控訴人等は二階のみを使用するようになったこと、

(ロ) 右訴外渡辺の営業の実際は、訴外渡辺が営業上の損益一切を負担し、独立の主体として営業を行い、一方控訴人等は右訴外人の経営に全く関与せず、ただ右訴外人より毎月一定の金額の支払をうけるという形態であったこと、

(ハ) その後昭和二五年三月三〇日右両者間であらためて喫茶店、菓子類の小売販売業について前同様の経営委託契約なる契約を締結し、引き続き右(ロ)と同様の形態で訴外渡辺が一階において独立して右営業を行い、控訴人等が二階を占有してきたこと、

(ニ) 昭和二六年一〇月一日訴外渡辺が右一階における喫茶店営業について、被控訴人両名との間で右同様の経営委託契約なる契約を締結し、被控訴人両名が右(ロ)の訴外渡辺の営業形態と同様の形態で独立して喫茶店を経営するに至り、訴外渡辺に対し、毎月金六万円を支払い、訴外渡辺が控訴人等に対し毎月金四万円を支払う(具体的には被控訴人両名が控訴人等に直接金四万円を、訴外渡辺に金二万円を支払う)ようになったこと、

(ホ) そして昭和二七年暮頃控訴人等が本件建物の二階から退去したこと、

(ヘ) 更に昭和三三年三月一〇日控訴人等と訴外渡辺との間で、本件建物の一、二階全部の営業についてあらためて前同様の経営委託契約なる契約が締結され、被控訴人両名が一階において喫茶店、二階においてバーを経営するに至り、控訴人等に直接金七万円を、訴外渡辺に金二万円を毎月支払うようになったこと、

をそれぞれ認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

(2)  右に認定した事実によれば、昭和二三年四月三日、昭和二五年三月三〇日および昭和三三年三月一〇日の控訴人等・訴外渡辺間の各契約は、経営の委託とはいうものの、それはただ名目にすぎず、いずれもその実体は訴外渡辺との間の本件建物の転貸借契約であり、訴外渡辺は右契約に基づいて本件建物を独立して使用収益してきたものであって、控訴人等が主張するような控訴人等の占有補助者にすぎないものではなかったものと認むべきである。

(二)  次ぎに被控訴人会社が昭和三六年五月一〇日到達の内容証明郵便をもって控訴人等に対し本件建物についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたことは控訴人等の認めて争わないところである。

四、そこで控訴人等主張の仮定再抗弁について判断する。

(一)  仮定再抗弁一(転貸をなし得る旨の約定の存在)

控訴人等の主張にそう原審における控訴人等各本人の供述はいずれも原審証人岡部誠三郎の証言に照らして措信しがたく、他に控訴人等の主張事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも≪証拠省略≫によれば控訴人等が訴外合資会社鳥海商会から本件建物を賃借するにあたり、権利金として金一七万五、〇〇〇円を支払った事実を認めることができる(原審において控訴人藤本潔は権利金として支払った金員は合計金二七万五、〇〇〇円であると供述するが、右供述は信用できない。)が、右事実のみをもってしては未だ控訴人等の主張事実を認めるに十分でない。よって仮定再抗弁一は理由がない。

(二)  仮定再抗弁二(訴外岡部の承認)

≪証拠判断省略≫。もっとも≪証拠省略≫によれば、昭和二七年七月二五日本件建物の使用占有状態に疑問をもった訴外岡部が控訴人等に対し転貸を理由に明渡を求めたため、訴外岡部・控訴人等間に紛争が生じ、控訴人等が賃料を供託するに至ったが、その後交渉の結果昭和三〇年一二月八日両者間で和解が成立し、賃料を値上げして従来の賃貸借契約を継続することとなったこと、甲第一四号証の契約書がその際作成されたことを認めることができる。しかし右甲第一四号証には、控訴人等の上記転貸を承認する旨の記載は全くなく、≪証拠省略≫によれば、訴外岡部は本件建物の使用占有状態に一応疑問をもったのではあるが、その実体はつかめず、右和解にあたり控訴人藤本潔に本件建物の使用状態について尋ねたところ、自ら使用している旨を述べるのでやむなくこれを了承し、今後とも第三者に対する転貸は認めないことを明らかにした上で右和解をなしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、訴外岡部が控訴人等主張のように控訴人等に対し転貸を承認して右和解をなしたものとは到底認められない。

よって仮定再抗弁二も理由がないものというべきである。

(三)  仮定再抗弁三(解除の意思表示の撤回)

被控訴人会社が前記認定の解除の意思表示の後である昭和三七年一一月頃控訴人等から昭和三一年八月分以降昭和三六年四月分までの本件建物の賃料を受領したことは当事者間に争いがないが、右賃料は賃貸借契約解除前のそれであるから被控訴人会社がこれを受領するのは当然のことであり、右受領の際特に被控訴人会社が前記解除の意思表示を撤回したものと認めるに足りる証拠は全く存しないから、仮定再抗弁三も理由がない。

五、以上説示したとおり控訴人等の再抗弁はいずれも理由がないから前記認定の賃貸借契約解除の意思表示は有効になされたものというべく、被控訴人会社と控訴人等との間の賃貸借契約は右解除により終了したものといわなければならない。よって控訴人等の被控訴人会社に対する賃借権確認請求は理由のないことが明らかであり、被控訴人両名に対する賃借権に基づく明渡請求も又その余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかである。

第二、被控訴人両名に対する第二次請求について。

一、控訴人等が本件建物について訴外渡辺との間に転貸借契約を締結したことは上記第一、三(一)でさきに認定したとおりであり、又右第一、三(一)の認定事実によれば、訴外渡辺は本件建物について被控訴人両名との間に再転貸借契約を締結したものと認めるのが相当である。

二、そこで被控訴人両名主張の抗弁について判断する。

(一)  右第一で判断したように被控訴人会社・控訴人等間の賃貸借契約は昭和三六年五月一〇日に控訴人等の訴外渡辺に対する無断転貸を理由とする解除により終了したものであるところ、被控訴人両名が昭和三六年六月一六日被控訴人会社より本件建物の明渡請求訴訟を提起されたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫および当事者間に争いのない被控訴人米谷明が本件建物の一階部分を、被控訴人堀越弘子が二階部分をそれぞれ現に占有している事実をあわせ考えれば、被控訴人両名は右訴訟進行中の昭和三七年四月一八日に裁判外の和解により被控訴人会社の明渡請求を認め、あらためて被控訴人会社から直接本件建物を賃料一ヶ月金六万円で賃借することとし、占有の改定によってその引渡を了し、以後右賃貸借契約に基づいて本件建物を使用収益するに至ったことを認めることができる。もっとも≪証拠省略≫によって右和解の際に作成されたものと認められる丙第一号証(契約書)には、訴外藤城亮が被控訴人会社より本件建物を賃借してバーおよび喫茶店を営業することとし、被控訴人両名が右訴外人の支配人として右営業に従事するという趣旨の記載があり、原審証人吉川万蔵、同藤城亮も右和解において右の趣旨の約定が真実なされた旨をそれぞれ供述している。しかし≪証拠省略≫によれば、訴外藤城亮は、被控訴人会社の取締役であり、被控訴人会社は近く実施が予定されていた都市計画による区画整理の際に本件建物について支払われる補償金を被控訴人会社がより多く取得できるようにするために、右和解の契約書の作成にあたり、契約書上訴外藤城亮を賃借人とし、被控訴人両名をその支配人として表示するよう申し入れ、右申入に基づいて丙第一号証が作成されたにすぎないことが認められるから、原審証人吉川万蔵、同藤城亮の右各供述はいずれも信用できないし、丙第一号証の右記載は上記の認定をなんら覆すに足りない。その他原審証人吉川万蔵、同藤城亮の各証言中上記の認定に反する部分は信用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)(1)  ところで転貸借、再転貸借契約はいずれも原賃貸借契約とは別個独立の契約であって、原賃貸借契約が無断転貸を理由に解除された場合も転貸借、再転貸借契約が当然終了するものとは解されない。

(2)  しかし、原賃貸人(目的物の所有者)の承諾のない転借人や再転借人は、原賃貸人から目的物の返還を請求されればこれに応じなければならないのであるから、原賃貸借契約が無断転貸を理由に解除され、転借人や再転借人が原賃貸人から目的物の返還を請求された場合において、転借人や再転借人が原賃貸人の請求を認め、原賃貸人と直接賃貸借契約を締結し、右賃貸借契約に基づいて目的物を使用収益するに至ったときは、転貸人や再転貸人において目的物を転借人や再転借人に使用収益させることが不能となり、転貸借契約や再転貸借契約は当然終了するものと解するのが相当である。(右不能が転貸人再転貸人の責に帰すべき事由によるときは、一般原則によれば転借人、再転借人において契約を解除しない限り転貸借、再転貸借契約は終了せず、各契約当事者は互いに賃料支払債務と填補賠償債務とを負担することとなる筈であるが、転貸借、再転貸借契約のような継続的関係においては右両債務を対立させておくことは徒らに関係を複雑にするだけであるので、右不能が生じたときは帰責事由の有無を問わず、転貸借、再転貸借契約は解除をまたずに終了し、じ後の当事者間の関係は損害賠償のみの問題として処理すべきものと解する。)

(三)  本件においては右(一)に認定したように無断転貸を理由として原賃貸借契約が解除された後に再転借人である被控訴人両名が、原賃貸人である被控訴人会社から本件建物の返還を請求され、その後右請求を認め、被控訴人会社と直接賃貸借契約を締結し、占有改定により本件建物の引渡を了し、以後右契約に基づきこれを使用収益するに至ったわけであるから、右賃貸借契約の締結および本件建物の引渡の時(昭和三七年四月一八日)をもって、転貸人である控訴人等、再転貸人である訴外渡辺において本件建物を転借人、再転借人に使用収益させることが不能となり、控訴人等と訴外渡辺との間の転貸借契約および訴外渡辺と被控訴人両名との間の再転貸借契約はいずれも解除をまたずに終了したものというべきである。

三、よって右各契約の現在を前提とする控訴人等の被控訴人両名に対する第二次請求も又理由がない。

第三、結論

以上判断したとおり控訴人等の被控訴人会社に対する賃借権確認請求および被控訴人両名に対する明渡請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却すべきところ、これと同趣旨に出でた原判決は正当であって、控訴人等の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、当審において新たに追加された控訴人等の被控訴人両名に対する第二次請求も理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園田治 裁判官 三宅純一 河本誠之)

<以下省略>

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